Activity Report

国内外の地域医療を医療、保健の視点から学び、実践することで地域に貢献する

マヒドン大学、タイ地域の病院での熱帯医学看護研修

タイ、マヒドン大学熱帯医学病院、ターク県ターソンヤン病院での熱帯医学看護研修です。デング熱やマラリアといった熱帯病に関することだけでなく、タイと日本の医療の違い、難民や移民への医療サポートなど興味深い報告書です。


【2015/11】ターソンヤン病院での研修(1)

杉原です。今週からTha song yang(ターソンヤーン)病院へきています。こちらで今月は研修をさせていただきます。この地域はミャンマーとの国境近くであるTak(ターク)県で、9月に行ったMae sot(メソト)はこの病院から2時間ほどの場所になり、カレン族という少数民族が多く住む山岳地域です。カレン族は独自の言葉や文化を持っています。農業を営み自給自足の生活をし、経済的には困窮している方が多くいます。またミャンマー人でありながらタイに居住するという状況のため、不法滞在となりタイ人としての国籍を持っていないことは多いそうです。Tha song yang病院は、社会的な側面も見ながら、病院の外にも出て、Helth postなどと連携しながらこの地域を支える大事な病院です。
初日にオリエンテーションとお互いの病院紹介をして、2日目から早速、白内障のモバイルクリニックへ行ってきました。Mar ra merngという、ものすごいガタガタ道を病院から2時間ほど行った山奥にあるHelth promoting hospitalで行なってきました。病院に行くには車やバイクが必要で、持っていない人が行くとなると3000円ほど(この地域の人にはとても高額)かかるため、来られない人が多くいます。そのためこうしたモバイルクリニックを行っています。来月バンコク病院から医師がきて白内障の手術を一斉に無料で行うため、特に今月は白内障患者のスクリーニングをこの地域で行っています。看護師1名、助手2名、運転手1名で行き、助手が視力検査等行った後、看護師が診察します。患者さんは21人来て、うち14人程が2週間後に医師が診察に来るときに再診となりました。Health promoting hospitalには看護師が1人、保健師が4人いました。簡単な処方や処置を行える場所で、医師は月に1度往診に来るのみです。受診は無料で、タイ人だけでなく誰でもかかることができ、この地域もほとんどがカレンの人たちです。薬や資材はTha song yang病院から定期的に調達しているそうです。

マヒドン大学
マヒドン大学
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【2015/11】ターソンヤーン病院での研修(2)

マヒドン大学杉原です。Tha song yangに来てから気づけば2週間が経っていました。Tha song yang病院は2次病院で、この地域にある唯一の中規模の病院です。赤ちゃんからお年寄りまでを対象にしており、基本的にすべてをこの病院が担う形になります。一般的な内科から小児科、産科、複雑でない手術や外科的処置、歯科、タイ伝統医療などもあります。日替わりで色々な場所に見学させていただいているので、まずは印象深かったことを書いてみます。Tha song yang 病院は地域に根差しており、とても健康教育という面で力を入れていました。看護師だけでなく、この病院にはヘルスワーカーがいます。例えば産後6週目に検診にくるお母さんの健康状態をチェックしながら家族計画について指導したり、NCD(Non Chronical Disease非感染性疾患、ここでは特に高血圧、糖尿病、COPDの患者さんをみていました)の外来や入院患者さんに対してCOPDの疾患や運動の方法などを伝えていたりしていました。更に、リハビリを行うPTさんも、患者さんの家族にリハビリの方法を指導していました。悪化した状態でやってくる患者さんをただ受け入れるだけでなく、こうした予防や症状悪化を防ぐ方法の指導はとても大切だと思います。

また病院内は、感染ゴミ等の分別はもちろんのこと、患者さんの使用するトイレもきれいに扱われていました。石鹸がなくてシャワーできないという患者さんには石鹸をあげることもあるそうです。もちろん、手洗い等の指導も行っているそうです。更に入院患者さんたちは一人一つ蓋つきのごみ箱を持っており、その中に痰を出したりしていました。入院という環境で自然と衛生観念が身につくように教育されるようになっているのかなと思いました。寄生虫に感染して下痢を起こす子どもがいたり、外来患者さんの様子をみていても衛生状態が良くはないだろうという患者さんに出会ったりします。ガスも電気もきれいな水もなく、清潔にできる環境が難しく、教育も十分ではない中ですぐに衛生環境をよくというのは難しいと思います。しかしこうした衛生環境改善を地道に行う病院の活動が徐々に広まることによって、少しずつこの地域が変わって行っているのではないのかなと思います。

看護研修
看護研修
看護研修

この地域のヘルスシステムとして、2次病院としてのTha song yang病院があり、各6つの地域にプライマリケアユニット(Health promotion hospital、看護師が簡単な処置や処方をするところ)が、その中に各村の診療所のようなところ(看護師もいないところ)があり、さらに各村の20件に1人の割合でヘルスボランティアという人たちがいます。Tha song yang病院はそのヘルスケアシステムのリーダーとして、この地域を支えています。例えば病院でデング熱の患者さんが多く搬送されていることがわかれば、プライマリケアユニットへ、そこから各村へ、各家へと伝えられ、蚊の発生状況を確認したりデング熱の患者さんがいないかと確認したりするそうです。またヘルスボランティアの教育もこの病院で行われているそうです。地域と密接にかかわりあうこの病院の仕組みが本当に素晴らしいなと思います。どれも一言で行ってしまえばプライマリヘルスケアなどの言葉でくくられるのだと思いますが、その一つ一つが素晴らしい取り組みだなと思いました。