Activity Report

国内外の地域医療を医療、保健の視点から学び、実践することで地域に貢献する

マヒドン大学熱帯医学フィールドワーク報告

地域医療国際支援センター長でもあるGMSの理事長の海外活動報告です。マヒドン熱帯医学部でのフィールドワーク報告から、タイ-ミャンマー国境沿いの病院紹介まで、興味深い活動報告です。

【2015/11】Mae Wa Ruang

タイ、ミャンマー近く山奥にある村Mae wa ruangに来ました。この村で寄生虫ゼロプロジェクトを始めるためのキックオフミーティングです。近くの村Mae Om Giをあわせて人口は約1300人の村です。病院、学校関係者が集まりました。この地域のプライアリケアを支えるのはHealth care officerで、医師はひと月に一回程度巡回します。Health care officerは簡単な処方、傷の処置を行います。近くにマラリアポストがあり、発熱患者はマラリアの検査、治療をそこで受けることができます。対応できない患者さんは2次病院に搬送します。
この村では有鉤条虫が流行していることは前回のフィールドワークで分かっていました。つい最近も子供が痙攣をおこし、病院に搬送され、有鉤嚢虫症と診断されたようです。寄生虫に限らず病気は文化、衛生状態、生活習慣と深く関わっています。単に薬を投与するだけでは病気を根絶することはできない。村の人の話をじっくり聞きます。今何を求めているのか、水、食事の現状は、トイレ、靴も。貧しい家庭が多いから、すんなり話は進みません。学校では山の川の水を直接タンクに溜めて飲んでいました。以前は電気でろ過するシステムがあったものの、壊れてしまったようです。子供の多くが成長が遅れており、食事の内容も気になります。蛋白質の摂取が少ないようです。トイレは学校に行ってから教育することが多い様子。靴も同じ現状でした。福祉団体が靴の寄付をするものの、履かない子供も多く、余った靴はたき火の燃料になってしまっているという話も聞きました。

マヒドン大学
マヒドン大学
マヒドン大学

プロジェクトはマヒドン大学の病院が主体になり、3年かけてモニターをしながら、介入を行います。一番のポイントは住民の方が活動を起こすよう支援すること、ヘルスワーカーがより知識、技術を付けるためのサポートや、病気に関するビデオ作りも一緒に行います。まずは子供たちをターゲットに学校の関係者と密に連絡を取りながら活動を行うことになりました。
この活動は僕が一番やりたかった活動でした。専門性をもって、地域に入り困っている部分をチームで改善する。住民の人と一緒により良い方向に向けて話をしていく。やりっぱなしではなく、きちんと効果をモニターし研究にも繋げる。臨床、公衆衛生、研究が一緒になって活動できる形はこの形ではないかと思います。そしてこの活動はまさに地域医療で、僕が余市でやりたいことと繋がることを今回実感しました。タイの田舎は本当に美しいです。夕陽の中を車で走ると、稲が黄金色に輝き、大勢の子供たちが元気遊んでいる側で、子ヤギが草を食べていました。


Tha Song Yang Hospital (1)

簡単に飛行機で海外に行ける今、国境を越えて日本国外の感染症の動向を学ぶことは大切です。
一方で熱帯医学の現場は、その土地での地域医療であり寄生虫を含めた感染症の多くは、蚊、水、土を介して感染し、貧困と多く結びついています。マヒドン大学は熱帯医学領域ではアジアのリーダーとして教育に力を入れており、ディプロマ、修士のコースには毎年日本人が参加しています。今回、マヒドン大学主催の熱帯医学 短期研修を主催します。対象は医師(内科、小児科、総合医、感染症医)、看護師等を対象としています。実際のベッドサイドのラウンド、顕微鏡を使った消化管寄生虫、マラリアの診断が可能な実践的なコースとなっています。
またハンセン病の診断、治療についても学ぶ機会を作りました。講義、ワークショップは大学の第一線の臨床医、研究者が担当します。


Tha Song Yang Hospital (2)

「雨季は住民が病院に来れないんだ。道が悪くて」「昨年は妊婦が移動中に一人亡くなった。雨季で病院に来れなかった」院長のDr. Nuengが言います。
Tha Song Yang hospital がカバーしている2次医療圏は100km程度でミャンマー国境地帯の山奥になります。プライマリケア、プライマリヘルスケアを行うHealth promoting hospitalとprimary care post(簡易診療所)が20程度あり、health care workerを中心に活動を行っています。Tha Song Yang hospital は、多くのプライマリケアの施設を管理、サポートしており、院長先生の視察に同行しました。杉原さんの投稿に書いてあるMae ra merngから車で2時間更に奥地に入ります。
雨が多い地域で、舗装されていない道路はかなり状態が悪いです。4WDのタフな車で走ります。一番奥のPrimary care post(簡易診療所)までは病院から5時間かかりました。道路の悪さは何回か政府に手紙を出しているとのこと。雨季で道路が使えないときに軍のヘリコプターを使う相談もしたようですが、まだ現実になっていません。連絡を受けたら病院から救急車を出して途中でドッキングして患者さんを搬送する方法をとるとのこと

マヒドン大学
マヒドン大学
マヒドン大学

「ここの村では数年前妊婦が、出産後大量の出血で亡くなった。貧しい家庭で妻がなくなった後、夫は育児を拒否したんだ。その家庭は崩壊してしまった。」とDr. Nueng。タイ全土では妊婦の90%が病院で出産しますが、この地域では70%が自宅分娩とのこと。 村の電気はソーラーシステムですが、常に電気が使えるわけではなく、電話は通じません。病院との通信は、電波塔を立ててトランシーバーのようなもので行っていました。電波塔のバッテリーが壊れていました。「この状態で、どうやって病院と連絡をとって、病院に来るんだ。」非常に穏やかな院長先生がまじめな顔になり、Health care workerと村の代表に話を始めました。「母親は出産で亡くなってはいけない」「病院に来たら助かるかもしれない。とにかく病院に連れてきてほしい」病院には保健師等スタッフが10名以上在籍しており、デング熱やコレラ等のoutbreak時には診療所のスタッフと共同で活動にあたります。病院が行うプライマリケアの形として地域との連携が素晴らしいです。


Tha Song Yang Hospital (3)

印象的だったのは、病院長のDr.Nuengでした。彼は研修医の2年目でこの病院に来てから、そして残る決断をして、今で14年になります。2年前に名古屋大学に公衆衛生の勉強に来て、海外と繋がることの大切さに気付き、様々な受け入れを行っています(名古屋大学にいたとき、佐久病院の坂本先生と知り合ったようです。名前が出たとき驚きました)。彼は研究者と連携も熱心に行っています。その縁で、マヒドン大学との良好な関係のおかげで今回、僕らも繋がることができました。 病院での医療、地域での保健活動、それぞれ部署を作り熱心に行っています。タイ、ミャンマーの国境沿い、民族が違う、言葉の問題、金銭的な問題、貧困、衛生環境、マラリア、寄生虫感染症、NCD、母子保健様々な問題があります。全部が出来ているわけではなく、今でも様々な問題があります。寄生虫の感染率も10年前から変わっていないそうです。しかし前向きでした。特に感銘を受けたのは、彼の人を育てる活動でした。
地域で優秀なカレン族の若者を奨学金等でサポートし、地域の保健活動に関わる様々な資格を取らせていました。保健師、歯科助手、看護師等々。雨が多い地域で、舗装されていない道路はかなり状態が悪いです。4WDのタフな車で走ります。一番奥のPrimary care post(簡易診療所)までは病院から5時間かかりました。道路の悪さは何回か政府に手紙を出しているとのこと。雨季で道路が使えないときに軍のヘリコプターを使う相談もしたようですが、まだ現実になっていません。連絡を受けたら病院から救急車を出して途中でドッキングして患者さんを搬送する方法をとるとのこと。
彼のうちの歓迎会に招待を頂きました。歓迎会に10人くらい若者が集まっていました。その若者がその地域の若者でした。きちんとした若者でかいがいしく働いていました。プライマリケアポストの視察に行った時も、その若者が中心に動いていました。その地域の若者が保健活動のリーダーとなり、自主的な活動となる。色々とできていないところは多いものの、素晴らしいです。様々な場所で、地域の若者がたどたどしく英語で自己紹介をしたり、英語でプレゼンをしてくれました。英語のプレゼンも院長先生が教えて促しているようです。地域の視察の時もカレン族の若者を2人連れてずっと一緒でした。日本のことに興味があり、色々と質問を受けました。日本に行きたいと言ってくれました。年齢は聞いていないのですが、たぶんDr. Nuengと僕はあまり年が変わらないのではないかと思います。車で色々な話をしました。彼と彼の活動はすごく印象的でした。病院、地域の活動はとにかく困った人の力になるために、できることをやる。戦略的に少しずつ改善させる。僕らの余市の活動と気持ちは同じです。僕もこの地域、この病院のためにできることをこれから探していきたいと思います。